企業内転勤ビザとは?概要や要件について解説します
【更新2025.05.27】加筆修正してわかりやすくしました。
「海外支社のキーパーソンを日本本社に異動させたい」
「グローバルな人材配置戦略の一環として、外国人社員の転勤をスムーズに進めたい」
とお考えの人事担当者の皆様、こんにちは。
貴社のような国際的な人事異動を実現する上で非常に有用な在留資格が「企業内転勤」ビザです。
一方で
「具体的にどのような場合に利用できるのか?」
「よく聞く『技術・人文知識・国際業務』ビザとは何が違うのだろうか?」
「申請に必要な条件や手続きは複雑ではないか?」
といった疑問をお持ちの方も多いことでしょう。
最後までお読みいただければ、企業内転勤ビザの全体像をご理解いただけ、貴社の人事戦略にこの制度をどう活かせるか、具体的な検討を進めるための知識が身についているはずです。
目次
そもそも「企業内転勤ビザ」とは?制度の目的と概要
まず初めに「企業内転勤ビザ」が具体的にどのような制度なのか、基本的な定義と設けられた目的について理解を深めていきましょう。
企業内転勤ビザは、企業のグローバル化が進む現代において、国際的な人材戦略を考える上で非常に重要な役割を果たします。
入管法では「企業内転勤」は、
「本邦に本店、支店その他の事業所のある公私の機関の外国にある事業所の職員が本邦にある事業所に期間を定めて転勤して行う『技術・人文知識・国際業務』の項の下欄に掲げる活動」と定められています。少し難しく聞こえるかもしれませんが、簡単に言うと、海外にある関連会社の社員が、期間を決めて日本の拠点に異動し、専門的な仕事をするための在留資格ということです。重要なのは「期間を定めて」という部分で、永続的な勤務ではなく、あくまで一時的な人事異動を想定している点にあります。
対象となる「転勤」の範囲は広く、単に同じ会社の中での異動(例えば、A社のニューヨーク支店から東京本社へ)だけではありません。親子会社間(A社の海外子会社から日本のA社本社へ)や、兄弟会社間(A社の海外子会社から、同じくA社の別の日本子会社へ)、さらには一定の資本関係がある関連会社間(A社が議決権の20%以上を持つ海外のB社から、日本のA社へ)の異動も含まれます。企業のグローバルな組織体系に合わせた柔軟な人材配置を可能にするための仕組みとなっています。
企業内転勤ビザが設けられた主な目的は、企業活動の国際化に伴って必要となる、海外拠点と日本拠点との間での人事異動を円滑に進めることにあります。海外で経験を積んだ優秀な人材を日本の拠点に呼び寄せたり、逆に日本のノウハウを海外拠点の社員に学ばせたりすることで、企業全体の競争力強化やグローバルな連携を図ることを支援する制度なのです。ある意味では、専門的な業務に従事する点で共通する「技術・人文知識・国際業務」ビザの、企業グループ内異動に特化した特例的な位置づけと考えることもできます。
どのようなケースで利用できる?対象となる企業の関係性
「企業内転勤」という名称を聞くと、同じ会社の中での異動だけを想像されるかもしれません。
しかし、企業内転勤ビザが適用される「転勤」の範囲は、もう少し広く定義されています。海外のどの事業所から日本のどの事業所への異動であれば、企業内転勤ビザを利用できるのでしょうか。対象となる企業間の関係性について、具体的に見ていきましょう。
企業内転勤ビザが利用できるのは、転勤元の海外事業所と、転勤先の日本事業所との間に、密接な資本関係がある場合に限られます。資本関係のパターンは、大きく分けて以下の4つが挙げられます。
【1】同一企業内の本店と支店(または支店間)の異動です。
例えば、海外に本社がある企業の日本支店へ社員を異動させる場合や、逆に日本の本社から海外支店へ社員を送り出し、その後日本本社へ戻すといったケースが該当します。これが最もシンプルな「転勤」の形と言えるでしょう。
【2】親会社と子会社間の異動です。
海外の親会社から日本の子会社へ、または日本の親会社から海外の子会社へ、さらにその子会社(孫会社)への異動なども対象となります。どちらが親会社でどちらが子会社であるかは問いません。企業のグループ内での人材交流が該当します。
【3】子会社同士の異動です。
同じ親会社を持つ、海外の子会社から日本の子会社へ異動する場合も、企業内転勤ビザの対象となります。いわゆる「兄弟会社」間の異動も含まれるわけです。
【4】関連会社間の異動です。
親会社・子会社の関係まではなくても、一方の会社が他方の会社の議決権を一定割合以上保有しているなど、財務諸表等規則で定められた「関連会社」の関係にあれば、企業内転勤ビザが認められる可能性があります。具体的には、議決権の20%以上50%以下を所有している場合などが該当します。関連会社の範囲については、少し複雑な規定もあるため、判断に迷う場合は確認が必要です。
重要なのは、挙げられたいずれのケースにおいても、転勤元と転勤先の間に資本的なつながりが求められるという点です。したがって、単なる取引先企業への出向や、資本関係のない業務提携先への異動、フランチャイズ契約を結んでいるだけの店舗への異動などは、企業内転勤ビザの対象にはなりません。そのような場合は、「技術・人文知識・国際業務」など、他の就労ビザの取得を検討する必要があります。
企業内転勤ビザで従事できる業務内容は?
海外の関連会社から日本へ社員を異動させる際、人事担当者として気になるのは「転勤してきた社員に、具体的にどのような仕事を任せられるのか?」という点ではないでしょうか。
企業内転勤ビザは、どんな業務にでも使える万能なビザではありません。許可される活動範囲には明確な定めがあります。企業内転勤ビザで従事することが認められている業務内容について、具体的に確認していきましょう。
企業内転勤ビザで許可される業務活動は、原則として、別の就労ビザである「技術・人文知識・国際業務」(技人国)ビザで認められている活動範囲と同じであると定められています。
技人国ビザは、自然科学(理系)、人文科学(文系)の分野における専門的な技術や知識を必要とする業務、または外国の文化に根差した感受性や思考を必要とする業務を対象としています。つまり、企業内転勤ビザで働く外国人も、専門的な業務に従事する必要があるのです。
具体的にどのような業務が該当するのか、分野ごとに例を挙げてみましょう。
- まず「技術」分野では、情報処理技術者、システムエンジニア、プログラマー、機械工学や電子工学の技術者、建築や土木分野の設計者などが典型例です。理系の専門知識を活かす仕事が中心となります。
- 次に「人文知識」分野では、企業の企画部門での業務、営業活動、マーケティングリサーチ、経理や財務、人事労務管理、法務、さらには経営コンサルティングなどが挙げられます。主に文系の専門知識や思考力が求められる業務が該当します。
- そして「国際業務」分野には、外国語を活かした翻訳や通訳、語学学校での指導、企業の広報・宣伝活動、海外の取引先との渉外業務、アパレルやインテリアなどのデザイナー、国際的な視点が必要な商品開発といった業務が含まれます。外国特有の文化や感性に基づいた専門性が求められる仕事です。
注目!技術・人文知識・国際業務ビザとは?
一方で、非常に重要な注意点があります。
企業内転勤ビザでは、いわゆる単純労働や現場作業とみなされる業務に主として従事することは認められていません。例えば、工場での製造ラインにおける組み立てや検品作業、建設現場での肉体労働、レストランでの配膳や皿洗い、店舗でのレジ打ちや品出し、ホテルの客室清掃などが主な仕事内容となる場合は、企業内転勤ビザの対象外となります。単純労働や現場作業は、専門的な知識や技術がなくても行えると判断されるためです。もちろん、専門職としての業務を行う中で、一時的に関連する現場作業に携わることまでが完全に禁止されるわけではありませんが、あくまで主体となる業務が専門的なものである必要があります。
申請のための重要要件:企業と本人が満たすべき条件
企業内転勤ビザを利用して海外から社員を日本へ異動させるためには、単に企業グループ内の異動であれば良いというわけではありません。
転勤する外国人本人と、受け入れる日本企業(そして送り出す海外の企業)の双方が、入管法で定められた特定の要件を満たしている必要があります。要件をクリアしなければ、申請は許可されません。企業内転勤ビザを取得するための重要な条件について、本人側と企業側に分けて具体的に解説します。
外国人本人の要件
まず、転勤する外国人本人に求められる要件を見ていきましょう。
最も重要かつ特徴的なのが、海外での勤務経験です。申請者は、日本への転勤の直前の期間において、継続して1年以上、転勤元の海外企業(またはその関連会社)に在籍し、かつ「技術・人文知識・国際業務」に該当する業務に従事していた実績が必要です。「1年以上」という勤務期間は、企業内転勤ビザの根幹をなす要件であり、満たさない場合は原則として申請できません。
次に、報酬に関する要件です。
日本で従事する業務に対して、同じ業務を行う日本人従業員が受け取る報酬と同等額以上の給与が支払われることが求められます。外国人だからという理由で不当に低い給与を設定することは認められません。給与の支払元は、日本の転勤先企業でも、海外の転勤元企業でも、あるいは両社から分担して支払われる形でも構いませんが、その合計額が基準を満たす必要があります。
さらに、転勤期間の定めも必要です。
企業内転勤ビザは、あくまで期間を限定した日本での勤務を前提としています。そのため、赴任期間が明確に定められている必要があり、無期限の転勤や永続的な勤務を目的とする場合は、企業内転勤ビザの対象とはなりません。
「技術・人文知識・国際業務」ビザとの大きな違いに触れておきましょう。
違いは学歴要件です。技人国ビザでは通常、大学卒業以上の学歴か、10年以上の実務経験などが求められます。しかし、企業内転勤ビザでは、学歴や長期の実務経験は原則として問われません。海外の拠点で1年以上、専門業務に従事した実績があれば、学歴に関わらず申請が可能となるのです。企業内転勤ビザの大きなメリットと言えるでしょう。
受入れ企業(日本)側の要件
外国人本人だけでなく、受け入れる日本企業側にも満たすべき要件があります。
まず、前のセクションで解説した通り、転勤元の海外企業との間に適切な資本関係(本店・支店、親子会社、関連会社など)が存在することが大前提です。関係性を証明する書類が必要となります。
加えて、転勤先となる日本国内の事業所が、安定した事業基盤を持ち、継続的に事業活動を行っていることも重要です。ペーパーカンパニーのような実体のない事業所や、経営状況が著しく不安定な場合は、外国人を雇用し、安定した処遇を提供できるか疑問視され、審査に影響が出る可能性があります。企業の規模や業績によっては、決算書などの提出を通じて経営状況を示すことが求められます。
「技術・人文知識・国際業務」ビザとの大きな違い:学歴要件の有無
改めて強調したいのが、企業内転勤ビザと技人国ビザの最も大きな違いの一つである「学歴要件」です。
企業内転勤ビザでは、申請者本人の学歴(大学卒業など)や、特定の分野での10年以上の実務経験といった要件が、原則として課されません。海外の拠点で1年以上、該当する専門業務に従事していれば良いのです。この学歴不問の点は、海外拠点で長年活躍しているものの、必ずしも高い学歴を持たない優秀な社員を日本に転勤させたい場合に、非常に大きなメリットとなります。学歴フィルターを気にすることなく、純粋に能力と経験で人材を選び、日本へ異動させることが可能になるのです。
企業内転勤ビザで許可される在留期間は?
無事に企業内転勤ビザが許可されたとして、次に気になるのは「どのくらいの期間、日本に滞在して働くことができるのか?」という点でしょう。
外国人社員のキャリアプランやプロジェクトの期間設定にも関わるため、在留期間について正しく理解しておくことは人事担当者にとって重要です。企業内転勤ビザで許可される在留期間の種類と、許可される期間がどのように決まるのかについて解説します。
企業内転勤ビザで認められる在留期間は、「5年」「3年」「1年」「3ヶ月」のいずれかとなります。申請時に希望する期間を記載することはできますが、最終的にどの期間が許可されるかは、出入国在留管理庁が個別の申請内容を審査した上で決定します。必ずしも希望通りの期間が付与されるとは限りません。
あくまでも「期間を定めた転勤」のため、あまりにも長い期間の場合には企業内転勤の要件を満たすことにはならず、不許可となる恐れがあります。5年以内というのがひとつの目安になるでしょう。
まとめ|企業内転勤ビザを理解し、戦略的な人材活用を
当ページでは、企業のグローバルな人事戦略に不可欠な「企業内転勤ビザ」について、基本的な仕組みから申請要件、対象となる業務内容、在留期間まで、人事・総務担当者の皆様が必要とする情報を網羅的に解説しました。
企業内転勤ビザは、海外拠点を持つ企業が、本店・支店間や親子会社・関連会社間で専門的な知識やスキルを持つ人材を異動させる際に活用できる有効な手段です。
特に、大学卒業などの学歴要件が問われないため、海外拠点で実務経験を積んだ優秀な人材を学歴に関わらず日本へ招へいできる点は大きなメリットと言えるでしょう。許可される在留期間は企業の状況や本人の経歴により異なりますが、更新も可能であり、計画的な人材配置に役立ちます。
私たちは外国人ビザ申請専門の行政書士法人35です。年間350件超のサポート実績。オンライン申請で全国の入国管理局への申請代行が可能です。失敗しないビザ申請ならお任せください。
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行政書士法人35
代表行政書士 萩台 紘史
2021年4月 SANGO行政書士事務所を開業
2023年9月 法人化に伴い「行政書士法人35」を設立
外国人の就労ビザ申請に専門特化した事務所として年間350件超の就労ビザ申請をサポート