【技能ビザ】宝石・貴金属・毛皮の加工職人|招へいの要件と10年の経験証明方法を解説
海外から優れた宝石研磨工、彫金師、毛皮職人を招き、事業の核としたい。そう考える経営者にとって、「技能ビザ」は重要な選択肢です。しかし、この分野のビザ申請は、熟練した技術の証明が求められる専門的な領域です。
本記事では、「宝石・貴金属・毛皮加工」の技能ビザについて、その要件や実務経験の証明方法を解説します。
職人に求められる「10年の実務経験」をどう証明するのか、フリーランスの職人はどう扱われるのか。この記事を読めば、招へいの具体的な道筋が見えてきます。
目次
宝石・貴金属・毛皮加工職人の招聘と技能ビザの基本
まず、技能ビザの基本的な考え方と、この分野で定められている絶対的な要件を解説します。
1. 技能ビザとは?日本の産業に貢献する専門技能職のための在留資格
技能ビザとは、日本の産業分野で活躍する、熟練した技能を持つ外国の専門家を受け入れるための在留資格です。調理師やスポーツ指導者など様々な分野がありますが、「宝石・貴金属・毛皮加工」もその一つとして明確に定められています。
2. 対象となる3つの分野「宝石加工」「貴金属加工」「毛皮加工」の概要
この技能ビザが対象とするのは、以下の3つの専門分野における製造・加工の技能です。
- 宝石加工:原石のカッティングや研磨など。
- 貴金属加工:金、プラチナなどを用いた彫金や石留めなど。
- 毛皮加工:毛皮のデザイン、裁断、縫製など。
これらの分野で、熟練した職人としての技能が求められます。
3. 絶対条件は「10年以上の実務経験」
この分野で技能ビザを取得するための最も重要な要件は、申請者本人が10年以上の実務経験を有していることです。この10年には、外国の教育機関で関連科目を専攻した期間を含めることができます。
この「10年」という年数は、一朝一夕では習得できない、高度な専門技能を証明するための公的な基準です。
最重要|「10年の実務経験」をどう証明するか
技能ビザ申請の成否は、「10年の実務経験」を客観的な書類で証明できるかにかかっています。ここでは、その具体的な方法を解説します。
1. 在職証明書・契約書による証明が基本原則
最も基本的で重要な証明書類は、過去に所属していた工房や企業が発行した「在職証明書」や「雇用契約書」です。これらの書類で、10年間の職務経歴を途切れることなく立証するのが理想です。
記載すべき必須項目と注意点
証明書には、勤務期間や役職名はもちろん、「宝石研磨工として、ダイヤモンドのブリリアントカットに従事」のように、担当した具体的な加工作業の内容まで詳細に記載する必要があります。複数の工房での経験を合算する場合、全ての所属先から証明書を取得することが原則です。
2. フリーランス職人の場合の立証方法
宝飾業界では、特定の企業に属さずフリーランスとして活動する職人も少なくありません。この場合、在職証明書の取得は困難ですが、諦める必要はありません。以下の書類などを組み合わせ、10年間の活動を立証します。
作品ポートフォリオの有効な使い方
いつ、どのような作品を製作したのかを時系列でまとめたポートフォリオは、活動の継続性を示す上で有効です。作品の写真だけでなく、製作年月日や素材、使用した技術などを付記しましょう。
過去の取引先との契約書や請求書の重要性
フリーランスであっても、仕事を発注した企業や個人との間で交わした業務委託契約書や、継続的な取引を示す請求書・領収書の控えは、客観的な活動の証拠となります。10年分を網羅できるよう、整理しておくことが重要です。
業界団体や著名な専門家からの推薦状
所属する業界団体や著名な専門家から、申請者が10年以上プロとして活動してきたことを証明する推薦状を得ることも、信憑性を高める上で非常に有効です。
3. コンクール受賞歴や公的資格の役割
国際的な宝飾デザインコンクールでの受賞歴や、国が認定する宝飾加工に関する公的な資格は、技能レベルの高さを客観的に示す強力な武器となります。
受賞歴や資格は「10年」の代わりになるか?
注意点として、これらの輝かしい実績も「10年の実務経験」という要件そのものを免除するものではありません。あくまで、10年間の活動内容が質の高いものであったことを示す補強材料です。
分野別|求められる技能と審査のポイント
一口に「宝石・貴金属・毛皮加工」と言っても、その分野ごとに求められる技能は様々です。ここでは、それぞれの分野で審査上ポイントとなる技能の具体例を解説します。
1. 宝石加工(宝石研磨工、カッター)
原石の特性を見抜き、その価値を最大限に引き出す技能が求められます。例えば、ダイヤモンドのクラリティを上げるためのリカット技術や、希少なカラーストーンへのファセットカット、カボションカットなど、手作業による高度な研磨・カッティング技術が熟練技能と評価されます。
2. 貴金属加工(彫金師、石留職人)
デザインの再現性や、細部の精密さが問われます。特に、ヨーロッパの伝統的な手彫り技術や、金属を糸のようにして模様を作るフィリグリー(線条細工)、多数の小さな宝石を隙間なく敷き詰めるパヴェセッティングなどの石留め技術は、高い専門性があると見なされます。CAD/CAMオペレーターのような機械操作が主となる業務とは、明確に区別されます。
3. 毛皮加工(ファーリエ、デザイナー)
毛皮の種類による特性を理解し、デザイン、裁断、縫製までを一貫して手掛ける技能が求められます。特に、複数の毛皮を自然な形で繋ぎ合わせる技術や、毛の流れを計算した立体的なデザインを構築する能力は、熟練した技能の証です。一般的なアパレル工場の縫製工員とは異なり、専門家としての技術が必要です。
受け入れ企業(工房)側に求められる3つの要件
優れた職人を招聘するには、受け入れ側である企業や工房の体制も厳しく審査されます。以下の3つの条件をクリアしているか、自社の状況を確認しましょう。
1. 事業の専門性と安定した経営基盤
まず、宝飾品や毛皮製品の製造・加工を主たる事業としており、安定した経営がなされていることが大前提です。決算書などを通じて、職人へ継続的に給与を支払える財務基盤があることを示す必要があります。
2. 技能を発揮できる専門的な工房・設備の存在
職人がその高度な技能を十分に発揮できる、専門的な作業環境と設備が整っていることが求められます。宝石研磨機、彫金台、特殊なミシンなど、業務内容に応じたプロ仕様の設備があることを、工房の写真などを提出して証明します。
3. 日本人職人と同等額以上の報酬
もし同じ工房に日本人職人がいる場合、その日本人と同等額以上の報酬を支払うことが法律で定められています。専門技能を持つ人材に対し、国籍を理由に不利益な待遇をすることは法律で禁じられています。
他の就労ビザとの違い
宝飾・アパレル関連の職種では、他の在留資格とどちらで申請すべきか迷うケースがあります。ここで主な違いを解説します。
1.「技術・人文知識・国際業務」ビザとの違いは?(デザイナー職など)
宝飾デザイナーなどで、デザイン業務を主におこない、自らは製作作業をしない場合は、「技術・人文知識・国際業務」ビザの対象となる可能性があります。こちらは主に大学卒業などの学歴が要件となります。一方、技能ビザは、本人が直接手を動かす「製作・加工」が主な活動です。
2.「特定技能」ビザの対象にはならないのか?
2025年現在、「特定技能」ビザの対象分野に、宝石・貴金属・毛皮加工は含まれていません。したがって、これらの職人を招くためには、技能ビザを取得する必要があります。
申請から職人来日までの4ステップ
海外から職人を招く手続きは、日本で「在留資格認定証明書」を取得後、海外にいる本人へ引き継ぐ流れです。
- ステップ1:雇用契約の締結と書類準備
採用する職人と雇用契約を結びます。その後、日本側と本人側で、在職証明書や事業に関する資料、ポートフォリオなど、申請に必要な書類を全て準備します。 - ステップ2:日本の入管へ「在留資格認定証明書」の交付申請を行なう
受け入れ企業が申請人となり、管轄の出入国在留管理局へ「在留資格認定証明書交付申請」をおこないます。審査には通常1ヶ月から3ヶ月ほどかかります。 - ステップ3:証明書を本人へ送付
証明書が交付されたら、速やかに海外にいる職人本人へ郵送します。この証明書の有効期間は発行から3ヶ月間です。 - ステップ4:本人が自国の日本大使館等でビザを取得し来日
職人本人は、送られてきた証明書とパスポートなどを持参し、自国の日本大使館でビザ(査証)を申請します。ビザ発給後、来日が可能となります。
不許可になりやすいNG事例集とその対策
この分野の技能ビザ申請で、特に陥りやすい失敗例とその対策を解説します。
1. 事例:実務経験の証明が客観性に欠け、自己申告に留まっている
最も多い不許可理由です。フリーランスの職人が、過去の作品を並べたポートフォリオだけで「10年やってきた」と主張するケースなどが典型です。
対策:ポートフォリオだけでなく、過去の取引先からの請求書や契約書、業界団体からの推薦状など、第三者が介在する客観的な証拠をできる限り集めることが不可欠です。
2. 事例:業務内容が単純作業や機械操作と判断される
申請する業務内容が、一定の訓練で習得できる単純作業や、マニュアル化された機械操作は「熟練した技能」とは見なされません。
対策:申請理由書などで、その作業に手作業による高度な判断と長年の経験がいかに必要かを具体的に説明する必要があります。
3. 事例:受け入れ企業の事業実態が不明確、または不安定
ペーパーカンパニーではないか、職人を雇用して給与を支払い続けるだけの事業基盤があるのか、といった点が疑われると不許可となります。
対策:工房の写真、設備のリスト、ウェブサイト、過去の取引実績、そして健全な財務諸表を提出し、安定した事業実態があることを明確に示すことが重要です。
「宝石・貴金属・毛皮加工」技能ビザに関するQ&A
専門的なこの分野について、よくある質問にお答えします。
Q1. 複数の分野(例:宝石と貴金属)の経験を合算できますか?
関連性が高い業務であれば、合算して主張できる可能性はあります。例えば、貴金属の台座に宝石を留める「石留め」職人であれば、両方の知識と経験が不可欠です。職務内容の中で、その関連性を合理的に説明することが重要です。
Q2. 専門学校で宝飾デザインを学んだ期間は実務経験に含まれますか?
はい、含まれます。技能ビザの「10年の実務経験」には、外国の教育機関で、関連する製造・加工の科目を専攻した期間を含むことができます。
Q3. 招へいした職人は、デザインや企画業務もできますか?
主な業務が「製造・加工」であれば、それに関連するデザイン業務などをおこなうことは可能です。ただし、業務の大半がデザインや企画、指導などになり、製造・加工にほとんど従事しない場合は、在留資格の活動内容から逸脱すると判断される可能性があります。
まとめ:「10年の客観的証明」が最重要。専門家と招聘を実現
「宝石・貴金属・毛皮加工」の技能ビザは、日本の宝飾・アパレル産業にとって重要な制度です。最後に、申請成功のためのポイントを振り返ります。
1. この分野の技能ビザは「10年以上の実務経験」が絶対条件
この「10年」という要件を正確に認識することが、申請の出発点です。
2. 成功の鍵は、客観的な書類で10年を立証できるかにある
申請の成否は、職人の経歴を、第三者が発行する客観的な書類で隙なく証明できるかにかかっています。
3. フリーランスの職人の場合は、ポートフォリオや取引履歴など多角的な証明が必要
在職証明書が取得できないフリーランスの職人でも諦める必要はありません。多様な資料を組み合わせた、専門的な立証が求められます。
4. 専門性が高く立証が難しい分野のため、申請は専門家に任せるのが最善策
この分野のビザ申請は、個々の職人のキャリアに応じたオーダーメイドの立証が不可欠です。不許可のリスクを避け、確実に職人を招くためには、経験豊富な専門家へ相談するのが賢明です。
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行政書士法人35
代表行政書士 萩台 紘史
2021年4月 SANGO行政書士事務所を開業
2023年9月 法人化に伴い「行政書士法人35」を設立
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