【技能ビザ】動物の調教師や厩務員等を海外から呼ぶ方法とは?|実務経験など4つの要件を行政書士が解説します
「海外から優秀な動物の調教師を呼びたいが、手続きが複雑でわからない」「技能ビザという言葉は聞くが、自社で取得できるか判断できない」
動物園や乗馬クラブの経営者や人事担当者の方で、このような課題をお持ちではないでしょうか。
結論として、動物の調教に関する熟練した技能を持つ外国人は、「技能ビザ」を取得することで日本での就労が可能です。
ただし、申請には「10年以上の実務経験」など、満たすべき複数の厳しい要件が存在します。
この記事では、就労ビザ申請を専門とする行政書士が、動物の調教師を招へいするための技能ビザについて、具体的な要件から申請ステップ、注意点までを網羅的に解説します。
最後まで読めば、ビザ取得の全体像を理解し、招へい計画の実現性を判断できるようになるでしょう。
動物の調教は「技能ビザ」で外国人の専門家を招聘できる
海外から動物調教の専門家を招へいする場合、在留資格「技能」の取得が第一の選択肢となります。
この在留資格は、産業上の特殊な分野に属する熟練した技能を持つ外国人のために設けられています。
具体的には、以下の活動が対象となります。
- 動物園や水族館での動物の飼育・調教
- サーカス団での動物の調教
- 乗馬クラブでの馬の調教
- 競走馬の育成・調教
なぜ「技能ビザ」が該当するのか、その理由をご説明します。
1. 対象となる「動物の調教」活動の具体例
技能ビザの対象となるのは、長年の経験を通じて培われた「熟練した技能」を必要とする業務です。
動物の調教においては、単なるエサやりや清掃といった飼育(世話)作業だけでは該当しません。
動物の習性を深く理解し、専門的な技術を用いて特定の動作を教えたり、ショーやレースに向けて訓練したりする活動が求められます。
例えば、イルカのショーのトレーナーや、盲導犬の訓練士、競走馬の調教師などがこれにあたります。
2. なぜ他の就労ビザではなく「技能ビザ」なのか
代表的な就労ビザに「技術・人文知識・国際業務」がありますが、これは大学卒業レベルの学術的な知識を活かす業務が対象です。
一方で「技能ビザ」は、学歴よりも特定の分野での実務経験と、それによって得られた専門的な技能が重視されます。
動物の調教は、学問的な知識以上に、現場での長年の経験が重視される分野です。
そのため、大学等で学んだ知識を活かす「技術・人文知識・国際業務」ではなく、熟練技能を要する「技能ビザ」のカテゴリーに分類されるのです。
【最重要】外国人調教師を「技能ビザ」で呼ぶための4つの必須要件
技能ビザを取得するためには、法律で定められた要件をクリアしなければなりません。
特に動物の調教師を招聘する場合、以下の4つのポイントが審査で重要視されます。
- 【原則10年以上】動物の調教に関する実務経験の証明
- 従事する業務内容との厳格な関連性
- 日本人が従事する場合と同等額以上の報酬設定
- 雇用主との安定的・継続的な雇用契約
これらの要件を一つでも満たせない場合、ビザは不許可となります。
1.【原則10年以上】動物の調教に関する実務経験の証明
技能ビザの申請において、最も重要かつ証明が難しいのが「10年以上の実務経験」です。
これには、外国の教育機関でその動物の調教に関する科目を専攻した期間も含まれる場合があります。
この経験は、単に動物の近くにいただけでは認められません。
過去に所属していた海外の企業などから「在職証明書」を発行してもらい、具体的な業務内容と期間を客観的に証明する必要があります。
2. 従事する業務内容との厳格な関連性
日本で従事する予定の業務内容は、過去10年以上の実務経験と密接に関連していなければなりません。
例えば、犬の調教で10年の経験を積んだ人が、日本で馬の調教を行うことは基本的に認められません。
申請時には、雇用契約書や職務内容説明書などで、どのような業務に、どのくらいの時間従事するのかを明確に示す必要があります。
調教という専門業務だけでなく、清掃などの単純作業の割合が多いと判断されると、不許可のリスクが高まります。
3. 日本人が従事する場合と同等額以上の報酬設定
外国人であることを理由に、不当に低い賃金で雇用することは法律で禁止されています。
報酬額は、同じ職場で同じ業務に従事する日本人がいる場合、その日本人と同等額以上でなければなりません。
比較対象となる日本人がいない場合でも、同業他社の賃金水準や、地域の最低賃金を大きく下回るような報酬設定は認められません。
会社の給与規定などを提出し、報酬の妥当性を説明する必要があります。
4. 雇用主との安定的・継続的な雇用契約
ビザ申請の前提として、日本の受け入れ機関(会社)との間で、安定的かつ継続的な雇用契約が結ばれている必要があります。
雇用形態は、正社員や契約社員が一般的です。
業務委託契約なども考えられますが、単発の契約ではなく、継続性が見込まれるものでなければなりません。
会社の事業内容や経営状態も審査の対象となり、採用した外国人を安定して雇用し続けられるかどうかも見られます。
【事例で学ぶ】競走馬の厩務員を招へいしたケースから見る成功のポイント
技能ビザの要件をより具体的に理解するために、弊社がサポートしたケースを基にしたモデル事例から、申請成功のポイントを解説します。
1.「調教」と「世話」の業務内容を明確に分ける重要性
申請において、専門的な「調教」業務と、付随的な「世話」業務の割合を明確にすることが重要です。
この事例では、職務内容説明書を作成し、1日の業務スケジュールを詳細に記載しました。
例えば、「馬のコンディション管理とトレーニング計画の策定(2時間)」「レースに向けた専門的な騎乗・調教(4時間)」といった専門業務が中心であることを示しました。
一方で、「馬房の清掃、エサやり(2時間)」が付随的業務であることを明確にし、単純労働が目的ではないと主張しました。
2. 過去の在職証明書で実務経験をどう証明したか
10年間の実務経験を証明するため、過去に在籍した全ての厩舎から在職証明書を取り寄せました。
特に、各証明書には、単に「厩務員」と記載するだけでなく、担当した馬の名前や主なレース成績、具体的な調教内容(例:ゲート訓練、スタートダッシュ強化など)を詳細に記述してもらいました。
これにより、経歴に一貫性があり、かつ高度な専門性を持っていたことを客観的に証明できました。
過去の雇用主との良好な関係構築も、スムーズな書類準備には不可欠です。
3. 経営者が考えるべきビザ取得後の活躍と事業への貢献
ビザ取得はゴールではなく、スタートです。
この牧場の経営者は、採用理由書の中で、その厩務員の招へいが、自社の事業にどう貢献するのかを具体的に説明しました。
「彼の独自の調教メソッドを導入することで、所属馬の勝率を5%向上させ、牧場のブランド価値を高める」といった将来的なビジョンを提示したのです。
これは、申請の説得力を高めるだけでなく、採用後のミスマッチを防ぎ、外国人材が最大限のパフォーマンスを発揮できる環境作りにも繋がります。
申請から来日まで!技能ビザ取得に向けた5つのステップ
技能ビザの申請は、書類準備だけで完結しません。
海外にいる外国人を日本に呼び寄せるためには、日本の出入国在留管理庁と、現地の日本大使館(または総領事館)の両方で手続きが必要です。
全体の流れを把握し、計画的に準備を進めることが重要です。
一般的なステップは以下の5つです。
- 必要書類の収集と作成
- 在留資格認定証明書交付申請
- 審査と結果の受領
- 現地日本大使館でのビザ(査証)申請
- 来日と在留カードの受取り
各ステップでやるべきことを簡潔に解説します。
漏れなく準備!技能ビザ申請の必要書類一覧
技能ビザの申請では、多くの書類を準備する必要があります。
書類に不備があると、審査が長引いたり、最悪の場合不許可になったりする原因となります。
必要書類は、申請人(外国人)と受け入れ機関(日本の会社)の双方で準備が必要です。
1. 申請人(外国人)が準備する書類
申請人本人が準備する主な書類は以下の通りです。
- 証明写真
- パスポートのコピー
- 実務経験を証明する文書(在職証明書など)
- 学歴を証明する文書(卒業証明書など ※該当する場合)
- その他、関連する資格の証明書など
特に、実務経験を証明する在職証明書は、審査の根幹をなす最も重要な書類です。
2. 受入れ機関(日本の会社)が準備する書類
会社側で準備する主な書類は以下の通りです。
- 在留資格認定証明書交付申請書
- 雇用契約書のコピー
- 会社の登記事項証明書
- 事業内容を明らかにする資料(パンフレットなど)
- 直近年度の決算文書のコピー
- 法定調書合計表
- 採用理由書
会社の規模や状況によって、追加で書類の提出を求められる場合があります。
こんな場合は要注意!技能ビザが不許可になる3つのケース
技能ビザの申請が不許可となるケースは少なくありません。
不許可となる理由の多くは、申請内容の信憑性や、法律で定められた要件を満たしていないことが原因です。
ここでは、特に陥りやすい3つの不許可ケースをご紹介します。
これらのポイントを事前にチェックすることで、リスクを減らすことができます。
1. 実務経験の年数が不足、または証明が不十分な場合
最も多い不許可理由が、実務経験に関するものです。
単純に10年に満たないケースはもちろん、「在職証明書の内容が曖昧で、具体的な業務内容がわからない」「証明書が発行されず、経験を客観的に証明できない」といった場合に不許可となります。
自己申告だけでは実務経験とは認められません。
第三者が発行した信頼性の高い文書で、10年以上の専門的な経験を一日も欠かすことなく証明する必要があります。
2. 会社の経営状態や事業の安定性に懸念がある場合
申請人本人に問題がなくても、受け入れ機関である会社の経営状態が原因で不許可になることがあります。
例えば、債務超過である、設立されたばかりで事業実績がない、税金を滞納している、といったケースです。
出入国在留管理庁は、「外国人を雇用した後、継続して安定的に事業を行い、給与を支払い続けられるか」という点も審査します。
事業計画書などで、将来の安定性をしっかりと説明することが求められます。
3. 申請内容と実際の業務内容が異なると判断された場合
申請書に記載した業務内容と、実際の業務内容が異なると判断された場合も不許可となります。
例えば、「競走馬の厩務員」として申請したにもかかわらず、実態は清掃やエサやりなどの単純作業がほとんどである、といったケースです。
これは虚偽申請とみなされる可能性もあり、一度このような判断をされると、将来的なビザ申請にも悪影響を及ぼす恐れがあります。
実態に即した、正直な内容で申請することが何よりも重要です。
動物の調教師の技能ビザに関するよくある質問
ここでは、動物の調教師を技能ビザで招聘する際にお客様からよく寄せられる質問とその回答をご紹介します。
Q. 専門学校で動物について学んだ期間は実務経験に含まれますか?
A. はい、含まれる可能性があります。
海外の教育機関において、動物の調教に関連する科目を専攻して就学した期間は、10年の実務経験の一部として認められる場合があります。
ただし、どのような教育機関で、どのような内容を学んだかによって判断が異なるため、個別の確認が必要です。成績証明書や履修内容がわかるシラバスなどを準備しておくとよいでしょう。
Q. 申請から許可まではどのくらいの期間がかかりますか?
A. 審査期間は通常1か月から3か月程度です。
これはあくまで目安であり、申請内容や時期、地方出入国在留管理局の混雑状況によって変動します。
書類に不備があり、追加の資料提出を求められた場合は、さらに時間がかかることもあります。余裕を持ったスケジュールで準備を進めることが重要です。
Q. 途中で転職した場合、ビザの手続きはどうなりますか?
A. 転職は可能ですが、注意が必要です。
同じ「技能ビザ」の範囲内で、同じ職務内容(動物の調教)の会社に転職する場合でも、次回のビザ更新時に審査が厳しくなる可能性があります。
新しい勤務先でも安定性や継続性が求められるためです。場合によっては「就労資格証明書」を事前に取得し、新しい職場で就労可能か確認しておくと安心です。
まとめ:専門家の招へいは計画的な準備が成功の鍵。まずは専門家へご相談を
海外から動物の調教師等を招へいするための在留資格「技能」について、その要件や手続きの流れ、注意点を解説しました。
技能ビザの取得は、特に「10年以上の実務経験の証明」が大きなハードルとなります。
ご自身のみの判断で申請を進めると、不許可となる可能性が高まります。
外国人材の採用は、今や企業の成長に不可欠な戦略の一つです。
複雑なビザ申請は、信頼できる専門家に任せることで、担当者様の負担を軽減し、許可の確率を高めることができます。
就労ビザ東京ドットコムは、外国人ビザ申請の専門家です。年間350件超のサポート実績。オンライン申請で全国の入国管理局への申請代行が可能です。失敗しないビザ申請ならお任せください。
関連するオススメ記事はこちら
- フィリピン人を日本で雇用するための学歴要件とは?技人国(ぎじんこく)ビザは取れる?大学(CHED)と専門資格(TESDA)の要件を徹底解説
- 在学中で卒業証明書が用意できない!場合の対処法とは?|就労ビザ
- 【技能ビザ】スポーツ指導者等を招へいするための要件・書類・手続きを徹底解説
- 日本の就労ビザ19種類とは?対象者・活動内容・要件等を徹底解説
- 技術・人文知識・国際業務(ぎじんこく)とは|できる業務、要件を解説
- 【2025年】春就職の留学生の方へお知らせ|内定者
- 短期滞在ビザから就労ビザへの切り替えは可能なのか?
- 法定調書合計表とは?就労ビザの更新などで提出が必要な書類です!
- アポスティーユとは?【図解】必要な場面と申請手続きの全手順を解説!
- 【3分でわかる!】企業内転勤ビザとは?要件をまとめて解説!

行政書士法人35
代表行政書士 萩台 紘史
2021年4月 SANGO行政書士事務所を開業
2023年9月 法人化に伴い「行政書士法人35」を設立
外国人の就労ビザ申請に専門特化した事務所として年間350件超の就労ビザ申請をサポート