IT関係の資格で「技術・人文知識・国際業務(ぎじんこく)」ビザを取得する方法とは|情報処理技術者資格
「ITエンジニアとして日本で働きたいが、大学でITを専攻していない」「採用したい優秀な外国人がいるが、学歴や実務経験の要件を満たせるか不安だ」。外国人IT人材の採用において、「学歴の壁」は大きな課題です。
しかし、ITエンジニアのビザ申請には、この学歴・実務経験の要件が免除される特例があることはご存知でしょうか。
この記事では、「技術・人文知識・国際業務」ビザの取得において、学歴の代わりとなる「法務大臣が告示をもって定める情報処理技術に関する試験・資格」の全てを、ビザ専門の行政書士が解説します。
目次
技人国ビザの原則とITエンジニアの特例
まず、外国人ITエンジニアのビザを考える上で、基本となる原則と、今回解説する特例について理解することが重要です。
1. 原則:「大卒」または「10年の実務経験」というビザの壁
外国人がITエンジニアなどとして「技術・人文知識・国際業務」ビザを取得するには、原則として、以下のいずれかの学歴または実務経験の要件を満たす必要があります。
- 従事する業務に関連する科目を専攻して大学を卒業していること。
- 10年以上の実務経験を有していること。
この要件が、文系学部出身者や実務経験の浅いエンジニアにとって、大きな壁となっています。
2. 特例:法務大臣告示のIT資格があれば、学歴・経験不問に
しかし、IT分野の技術革新と人材不足に対応するため、特別なルールが設けられています。それは、法務大臣が告示した特定の情報処理技術者試験に合格しているか、資格を保有している場合、上記の学歴・実務経験の要件が免除されるという特例です。
つまり、大学でのIT専攻や実務経験がなくても、この告示に定められた資格さえあれば、ITエンジニアとしてビザを取得できるのです。
特例の対象となる日本の情報処理技術者試験(IPA)

申請書のこの記入欄です!
日本で特例の対象となるのは、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が実施する国家試験のうち、以下のものです。
1. 基本情報技術者試験(FE)
ITエンジニアの登竜門として知られる基本的な知識・技能を問う国家試験です。
2. 応用情報技術者試験(AP)
基本情報技術者試験より一段上の、応用的知識・技能を問う国家試験です。
3. 各高度試験・情報処理安全確保支援士試験
ITストラテジスト試験、システムアーキテクト試験、プロジェクトマネージャ試験、ネットワークスペシャリスト試験、データベーススペシャリスト試験、エンベデッドシステムスペシャリスト試験、ITサービスマネージャ試験、システム監査技術者試験、そして情報処理安全確保支援士試験といった、各分野の高度な専門知識を証明する試験も全て対象です。
ITパスポート試験は対象外なため注意が必要
同じくIPAが実施する国家試験ですが、「ITパスポート試験(IP)」は、ITを利用する社会人全般を対象とした基礎的な試験であるため、この特例の対象には含まれていません。
国別|ビザで有利になる海外のIT資格・試験一覧
この特例は日本の資格だけでなく、それと相互認証されたアジア各国の特定IT資格も対象です。ご自身の国の資格が該当するか確認しましょう。
1. 韓国の情報処理技術者試験
韓国産業人力公団が実施する「情報処理技士」「情報処理産業技士」などが対象です。
2. 中国の情報処理技術者試験
中華人民共和国工業情報化部が実施する「計算機技術とソフトウェア専門技術資格(レベル)試験」のうち、「系統分析師」「高級工程師」「工程師」「助理工程師」「技術員」の各レベルの資格が対象です。
3. フィリピンのITプロフェッショナル試験
フィリピンIT財団が実施する「ITプロフェッショナル認定試験」のうち、「ソフトウェア開発」「ネットワーク技術」などの分野が対象です。
4. ベトナムのITプロフェッショナル試験
ベトナム情報技術・訓練・試験センターが実施する「情報技術者試験」が対象です。
5. ミャンマーのITプロフェッショナル試験
ミャンマーコンピュータ連盟が実施する「ITプロフェッショナル試験」が対象です。
6. 台湾のITプロフェッショナル試験
台湾情報産業協会等が実施する「情報技術専門家鑑定」が対象です。
7. インドの政府認定資格
インド電子情報技術省が認定する資格レベルのうち、「Aレベル」「Bレベル」「Cレベル」が対象となります。
8. バングラデシュ、マレーシア、モンゴル、シンガポール、タイのITプロフェッショナル試験
これらの国で実施されている、日本の試験制度をベースとしたITプロフェッショナル試験も、同様に対象となります。
特例を活用するための3つの注意点
この特例は非常に強力ですが、万能ではありません。資格を活かしてビザを取得するためには、いくつか重要な注意点があります。
1. 資格と職務内容の関連性は問われる
たとえ応用情報技術者試験に合格していても、日本での仕事がレストランの接客や翻訳業務では、ビザは許可されません。保有する資格と、日本でおこなう業務内容との間に、合理的な関連性があることは、この特例を使う場合でも必要です。
2. あくまで「学歴・経験要件」が免除されるだけ
この特例は、技人国ビザの数ある要件のうち、「大学卒業または10年の実務経験」という部分を免除するものです。したがって、その他の要件は通常通り審査されます。
3. 資格さえあればビザが100%許可されるわけではない
本人の要件だけでなく、雇用する企業の事業の安定性・継続性や、本人の報酬が日本人と同等額以上であることなど、総合的な審査を経て許可・不許可が判断されます。資格は、あくまでビザ取得のための重要な要素の一つです。
企業向け|IT資格を持つ外国人を採用するメリット
この特例を理解することは、企業の採用戦略においても大きな武器となります。
1. 学歴を問わず、客観的なスキルを持つ人材を採用できる
最大のメリットは、採用候補者の出身大学や学部といった「学歴フィルター」を外し、国家試験合格という客観的な指標でスキルが証明された優秀な人材にアプローチできる点です。文系卒や専門学校卒の優秀なエンジニアも、安心して採用候補とすることができます。
2. 採用ターゲットをアジア諸国の優秀なIT人材に広げられる
日本の資格だけでなく、アジア各国の相互認証された資格も対象となるため、より広い範囲から候補者を探せます。特に、IT人材が豊富なアジア諸国の資格保持者は、有力な採用ターゲットとなるでしょう。
3. 採用面接時の確認ポイント
IT分野のバックグラウンドがない候補者を採用する場合は、面接時に「なぜIT資格を取得したのか」「エンジニアとしてどのようなキャリアを歩みたいのか」といった点を深く確認し、職務への意欲や適性を見極めることが重要です。また、合格証の現物や合格証明書を提出してもらい、資格の真偽を必ず確認しましょう。
情報処理技術者資格とビザに関するQ&A
IT資格とビザに関して、よくある質問にお答えします。
Q1. 告示にないIT資格(シスコ、オラクル等)はビザで有利になりませんか?
シスコ技術者認定(CCNAなど)やオラクルマスターといったベンダー資格はIT業界で高く評価されていますが、法務大臣が告示する資格ではないため、これらを持っているだけでは学歴・経験要件は免除されません。ただし、実務経験をアピールする際の補強材料として、審査で有利に働く可能性はあります。
Q2. 資格は持っていますが、実務経験が全くなくても大丈夫ですか?
はい、大丈夫です。この特例の最大のポイントは、実務経験がなくても、資格さえあれば学歴・経験要件をクリアできる点にあります。大学を卒業したばかりの、実務経験がない新卒者でも、この特例を使ってビザを取得することが可能です。
Q3. 資格の合格証を紛失してしまった場合はどうすれば良いですか?
IPAが実施する日本の試験の場合、合格証明書を再発行してもらえます。海外の資格については、それぞれの国の実施団体へ問い合わせる必要があります。申請には証明書の提出が必須ですので、紛失した場合は速やかに再発行手続きをおこないましょう。
まとめ:IT資格は学歴の壁を越える武器になる
法務大臣が告示で定める情報処理技術者資格は、外国人ITエンジニアのキャリアと、企業の採用戦略に大きな可能性をもたらします。
1. 法務大臣告示のIT資格は、技人国ビザの学歴・経験要件を代替する
これが最大のポイントです。大学でITを専攻していなくても、10年の実務経験がなくても、ビザ取得の道が開かれます。
2. 日本だけでなく、アジア各国の対象資格も有効
日本の国家試験だけでなく、韓国、中国、ベトナム、インドなど、アジア7カ国と地域の相互認証資格も同様に扱われます。
3. 資格を武器に、優秀なITエンジニアは学歴不問で日本のキャリアを目指せる
この制度は、学歴ではなく、客観的なスキルで評価されたいと願う全てのITエンジニアにとって、大きなチャンスです。
4. 企業はこの特例を理解し、採用の幅を大きく広げられる
「大卒」という枠に縛られず、真にスキルを持つ人材を見つけ出すために、企業はこの特例を積極的に活用すべきです。
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行政書士法人35
代表行政書士 萩台 紘史
2021年4月 SANGO行政書士事務所を開業
2023年9月 法人化に伴い「行政書士法人35」を設立
外国人の就労ビザ申請に専門特化した事務所として年間350件超の就労ビザ申請をサポート