【技能ビザ】外国特有の製品製造・修理の職人(エンジニア)を呼ぶ方法とは?
ペルシャ絨毯、ヴェネチアングラス、特殊な製法のチーズや生ハム。こうした海外の伝統的・専門的な製品を日本で製造するため、本国から熟練した職人を呼びたいと考える経営者様もいるでしょう。その際に必要となるのが「技能ビザ」です。
しかし、この分野の技能ビザは、調理師やスポーツ指導者とも異なる、特有の難しさがあります。
この記事では、「外国特有の製品製造」のための技能ビザについて、対象となる製品の具体例から、職人本人と受け入れ企業に求められる要件、そして申請の重要ポイントまで、専門家が網羅的に解説します。
目次
「外国特有の製品製造」の技能ビザとは
技能ビザの対象となる製品の定義や具体例、そして全ての基本となる実務経験の要件について解説します。
1. 技能ビザの対象となる製品の定義
法律上、この分野の技能ビザは「外国において考案され、日本において特殊な製品の製造又は修理に係る技能」を持つ者が対象とされています。
ポイントは2つです。まず、その技術や製法が「外国発祥」であること。そして、その技術が「日本においては特殊」で、簡単には代替できないものであることです。
2. 対象となる製品の具体例(織物・ガラス・食品・楽器など)
過去の事例や解釈から、以下のような製品の製造・修理が対象となる可能性があります。
- 織物・敷物:ペルシャ絨毯、ゴブラン織りなど、特定の地域に伝わる手織りの技術
- ガラス・陶磁器製品:ヴェネチアングラス、ボヘミアングラス、特定の様式のステンドグラス、リモージュ磁器など
- 食品:本場の製法による熟成チーズ、生ハム、サラミ、ソーセージなど(※大規模な工場生産品は除く)
- 木工・家具類:ヨーロッパのアンティーク家具の修理、特定の様式の椅子やキャビネットの製造
- その他:西洋の伝統的な石造建築の修理、パイプオルガンの製造・修理、バイオリンなどの弦楽器の製造・修理、ヨーロッパの伝統的な製本技術など
これらはあくまで一例であり、自社の扱う製品が対象になるかは個別の判断が必要です。
3. 大原則は「10年以上の実務経験」
この分野で技能ビザを申請する場合、職人本人に10年以上の実務経験が求められます。これは、調理師(タイ料理人などを除く)と同じく、熟練した技能を証明するための重要な基準です。
この10年には、外国の教育機関で当該製品の製造・修理に関する科目を専攻した期間も含まれる場合があります。
職人本人に求められる要件:「10年の実務経験」の証明方法
申請の最大の難関は、「10年の実務経験」を客観的な書類でどう証明するかです。単なる自己申告では決して認められません。
1. 在職証明書や契約書で客観的に証明する
最も基本かつ重要な書類が、過去に所属していた工房や企業が発行する「在職証明書」や「雇用契約書」です。
これらの書類には、勤務期間や役職だけでなく、「どのような製品の、どの製造工程に、どのくらいの期間携わっていたか」といった具体的な業務内容が詳細に記載されている必要があります。
2. 作品ポートフォリオやメディア掲載実績の有効性
特に工芸品などの分野では、本人が作成した作品の写真やリストをまとめた「ポートフォリオ」も、技能をアピールする上で有効です。
また、専門誌や新聞などで、その職人の技術が紹介された実績があれば、客観的な評価を示す強力な補強材料になります。ただし、これらはあくまで在職証明書などを補うものであり、ポートフォリオ単独での証明は難しいでしょう。
3. 複数の工房や国での経験は合算できるか
はい、複数の工房や異なる国での経験も、合算して10年以上であることを証明できれば問題ありません。
例えば、母国の工房で5年、その後ヨーロッパの別の国の工房で5年といったキャリアでも申請は可能です。重要なのは、それぞれの所属先から、期間と業務内容を明記した証明書を漏れなく取得することです。
受け入れ企業(工房)側に求められる要件
優れた技術を持つ職人を見つけると同時に、受け入れ側の企業や工房も、技能ビザを取得するにふさわしい環境であることを証明する必要があります。
1.「日本において特殊な技術」であることの立証責任
この分野には、もう一つの大きなハードルがあります。それは、受け入れ企業側が「招聘する職人の持つ技術が、日本では特殊で希少なものである」ことを立証する必要がある点です。
例えば、「国内の同業者組合に照会しても、同様の技術を持つ職人がほとんどいない」「その技術に関する日本の第一人者からの意見書」といった客観的な資料を準備することが有効です。なぜその職人でなければならないのか、その非代替性を説明する責任があります。
2. 職人が技能を発揮できる専門的な工房・設備の存在
招聘した職人が、その熟練した技能を十分に発揮できるだけの、専門的な作業場や特殊な機械・道具が整備されていることも重要です。
申請の際には、工房や設備の写真を提出し、職人がプロとして働くにふさわしい環境があることを示す必要があります。事業計画の中で、どのような製品を製造・修理するのかを具体的に示すことも求められます。
3. 日本人職人と同等額以上の報酬を支払うこと
これは他の技能ビザとも共通する要件です。もし同じ工房で同様の業務をおこなう日本人職人がいる場合、その日本人と同等額以上の給与を支払う必要があります。
外国人だからという理由で不当に低い賃金を設定することは認められません。日本の同業種の賃金水準を参考に、専門家としての技能に見合った適正な報酬額を雇用契約で定めることが不可欠です。
申請から職人来日までの4ステップ
海外から職人を呼び寄せる手続きは、日本側で「在留資格認定証明書」の交付を受け、その後本人に引き継ぐ流れで進みます。
- ステップ1:雇用契約の締結と書類準備
採用する職人と、業務内容や報酬を定めた雇用契約を結びます。その後、日本側と本人側で、在職証明書や事業に関する資料など、申請に必要な書類を全て揃えます。 - ステップ2:日本の入管へ「在留資格認定証明書」を申請
受け入れ企業が申請人となり、管轄の出入国在留管理局へ「在留資格認定証明書交付申請」をおこないます。審査には通常1ヶ月から3ヶ月ほどかかります。 - ステップ3:証明書を本人へ送付
証明書が無事に交付されたら、速やかに海外にいる職人本人へ郵送します。この証明書の有効期間は発行から3ヶ月間です。 - ステップ4:本人が自国の日本大使館等でビザを取得し来日
職人本人は、送られてきた証明書とパスポートなどを持参し、自国の日本大使館でビザ(査証)を申請します。ビザ発給後、来日が可能となります。
不許可になりやすい3つのNG事例と対策
この分野の技能ビザは、その専門性の高さから特に注意すべき不許可のポイントがあります。
1. 事例:「その製品は日本でも製造可能」と判断される
申請者が「外国特有の技術」と考えていても、入管が「その程度の製品なら、日本の一般的な技術でも製造可能だ」と判断すれば、不許可となります。単に外国製というだけでは不十分です。
対策:なぜその製法が特殊なのか、日本の技術とはどう違うのかを、資料を用いて具体的に説明します。業界の専門家からの意見書などが有効な場合があります。
2. 事例:実務経験の証明が客観性に欠ける
「素晴らしい作品をこれだけ作ってきた」というポートフォリオだけを提出し、客観的な在職証明書が伴わないケースです。自己評価だけでは、経験年数の証明にはなりません。
対策:あくまで第三者(過去の雇用主など)からの証明が基本です。ポートフォリオは、在職証明書に記載された業務内容を裏付けるための、補強材料として活用しましょう。
3. 事例:事業目的が「伝統技術の継承」でなく「大量生産」だと疑われる
事業計画の内容から、熟練した職人の技能を活かすというより、単なる労働力として安価な製品を大量生産することが目的だと判断されると、技能ビザの趣旨に合わないと見なされます。
対策:事業計画や理由書の中で、伝統技術の希少性や、高品質な製品を少量生産する必要性を強調し、この職人でなければ事業が成り立たないことを明確に訴えることが重要です。
「外国特有の製品製造」技能ビザに関するQ&A
ニッチな分野だからこそ生まれる疑問について、Q&A形式でお答えします。
Q1. 師匠への弟子入り期間は実務経験に含まれますか?
報酬を得て、実質的に製品の製造業務に従事していたと証明できれば、含まれる可能性があります。しかし、単に見習いとして雑務のみをおこなっていた期間や、無報酬の期間は実務経験とは見なされません。契約内容や活動実態によります。
Q2. 趣味の延長で作っていた経験は認められますか?
いいえ、認められません。技能ビザで問われる実務経験は、あくまで職業として、生計を立てるためにその業務に従事していた期間を指します。趣味や同好会での活動は、対象外です。
Q3. 招聘した職人は、工房で製品の販売業務もできますか?
いいえ、できません。技能ビザは、許可された「製造・修理」の活動に限定されます。自ら製作した製品を店頭で販売するなどの接客業務は、資格外活動にあたるため禁じられています。
まとめ:「10年の経験」と「日本の特殊性」の証明が鍵
「外国特有の製品製造」のための技能ビザは、他の分野にはない特有の難しさがあります。最後に、成功のための重要なポイントを振り返ります。
1. まず、自社製品が「外国特有の製品」に該当するか確認することが第一歩
申請を検討する前に、自社が扱う製品や技術が、技能ビザの対象となりうる「特殊性」を持つか、客観的に見極める必要があります。
2. 「10年以上の実務経験」を客観的な書類で証明することが最大の難関
職人本人の10年以上の実務経験を、信憑性の高い「在職証明書」などで隙なく立証できるかが、ビザ取得の成否を分けます。
3. 受け入れ側には「日本でその技術が特殊である」ことを立証する責任がある
職人本人の経歴だけでなく、受け入れ企業側が、なぜその技術が日本に必要なのか、その希少価値を証明することが、審査で極めて重要になります。
4. 極めて専門性が高い分野のため、申請は専門家である就労ビザ東京ドットコムに任せるのが賢明
この分野の申請は、案件ごとに高度な専門知識と立証テクニックが求められます。不許可リスクを最小限にし、確実な招聘を実現するためには、経験豊富な専門家への相談が不可欠です。
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行政書士法人35
代表行政書士 萩台 紘史
2021年4月 SANGO行政書士事務所を開業
2023年9月 法人化に伴い「行政書士法人35」を設立
外国人の就労ビザ申請に専門特化した事務所として年間350件超の就労ビザ申請をサポート