退去強制とは?オーバーステイや不法就労で国外退去になるまでの流れを解説
「退去強制」という言葉に、あなたは今、どのようなイメージを持っているでしょうか。
自分には関係ない遠い話だと思っていませんか?
しかし、オーバーステイ(不法滞在)や資格外活動(不法就労)など、ほんの少しの気の緩みや知識不足が、この非常に重い処分に繋がる可能性があります。日本で築いた生活、キャリア、人間関係のすべてを失い、強制的に国外へ退去させられる。それが「退去強制」です。
この記事では、この退去強制とは一体どのような制度なのか、どのような場合にその対象となり、実際にどのような手続きで進められていくのか、その全体像を専門家の視点から、冷静に、そして分かりやすく解説します。手遅れになる前に、正しい知識を身につけてください。
目次
「退去強制」とはどんな制度?
この重いテーマについて、まずはその核心的なポイントを先に押さえておきましょう。退去強制がどのようなものかを正確に理解することが、ご自身の身を守るための第一歩です。
日本の安全と利益を守るための、最も重い行政処分
退去強制とは、入管法に違反した外国人を、日本から強制的に退去させる行政処分のことです。これは、日本の法律における外国人への処分の中で、最も重いものの一つです。その目的は、日本の安全や社会の秩序、国民の利益を守ることにあります。
対象は、入管法に違反した外国人
どのような人が対象になるのでしょうか。最も多いのは、在留期間を超えて日本に滞在する「オーバーステイ(不法滞在)」です。その他にも、許可なく収入を得る活動を行った「不法就労」や、日本で重大な犯罪を犯した場合なども、退去強制の対象となります。
弁明の機会はあるが、最終決定は覆し難い
退去強制の手続きは、ある日突然、有無を言わさず国外へ送還される、というものではありません。入国警備官による調査の後、入国審査官や特別審理官による審査の機会が複数回与えられ、自身の意見を述べることもできます。しかし、一度「退去強制」という最終決定が下されると、それを覆すのは極めて困難です。
あなたは大丈夫?退去強制の対象となる主なケース
具体的にどのような行為が、この最も重い処分である「退去強制」に繋がってしまうのでしょうか。ここでは、特に多く見られる代表的な5つのケースについて、その内容を分かりやすく解説します。ご自身の状況が当てはまらないか、冷静に確認してみてください。
ケース①:オーバーステイ(在留期間を超えた不法滞在)
これは、退去強制となる原因の中で最も多いケースです。在留カードに記載された在留期間を1日でも超えて日本に滞在すると、「不法滞在」、いわゆるオーバーステイとなり、退去強制の対象となります。「うっかり更新を忘れていた」という言い訳は通用しません。在留期間の管理は、日本に住む外国人にとって最も基本的な義務の一つです。
ケース②:不法就労(許可なく収入を得る活動)
与えられた在留資格で認められていない仕事をして収入を得ることも、退去強制の対象です。例えば、留学生が許可された時間数(週28時間以内)を超えてアルバイトをしたり、就労が認められていない「短期滞在」のビザで働いたりするケースがこれに当たります。これも「知らなかった」では済まされない、重大な違反行為です。
ケース③:不法入国・不法上陸
有効なパスポートやビザを持たずに日本に入国したり、偽造された書類を使って入国審査を通過したりする行為です。密航などもこれに含まれ、発覚した場合は、当然ながら退去強制の対象となります。
ケース④:在留資格を取り消された場合
偽りの書類を提出して在留資格を得たことや、許可された活動を正当な理由なく長期間行っていないことなどが発覚した場合、「在留資格取消」という処分を受けることがあります。この処分が下されると、有効な在留資格を失うため、結果として退去強制の手続きに進むことになります。
ケース⑤:犯罪行為で有罪判決を受けた場合
日本国内で犯罪を犯し、有罪判決を受けた場合も、退去強制の対象となり得ます。特に、窃盗や詐欺、薬物犯罪などの重大な犯罪で、1年を超える懲役や禁錮刑に処せられた場合は、退去強制となる可能性が非常に高くなります。
摘発から送還まで。退去強制「5つ」のステップ
もし退去強制事由に該当すると判断された場合、手続きはどのように進むのでしょうか。ここでは、違反が疑われてから最終的に国外へ送還されるまで、標準的な5つのステップを解説します。これは、あなたの権利を守る上でも非常に重要な知識です。
ステップ①:入国警備官による「違反調査」
警察による摘発や、第三者からの通報などにより違反の疑いが生じると、まず入国警備官による「違反調査」が行われます。この調査は、出頭を求められるなど任意で行われるのが原則ですが、令状に基づいて強制的に行われることもあります。ここで、なぜ違反に至ったのか、現在の生活状況などを詳しく聞かれます。
ステップ②:身柄の「収容」と「仮放免」
違反調査の結果、「退去強制事由に該当する」と疑うに足りる相当な理由があると判断されると、「収容令書」が発付され、原則として入国者収容所に身柄を収容されます。ただし、健康上の理由などがある場合に、保証金を納付するなどの条件付きで、一時的に身柄の拘束を解かれる「仮放免」という制度もあります。
ステップ③:入国審査官による「違反審査」
収容から48時間以内に、次に入国審査官による「違反審査」が行われます。ここで、退去強制の対象となるかどうかが正式に審査・認定されます。この認定に対して不服がある場合は、3日以内に次のステップである「口頭審理」を請求する権利があります。
ステップ④:特別審理官による「口頭審理」
口頭審理では、特別審理官という上級の審査官に対し、入国審査官の認定に誤りがないかを、改めて審理してもらうことができます。これは、本人や代理人が直接、日本に在留したい理由や事情を主張できる、非常に重要な機会です。ここであなたの主張が認められれば、退去強制を免れる可能性も出てきます。
ステップ⑤:法務大臣の「裁決」と「退去強制令書」の発付
口頭審理でも判定が覆らなかった場合、最後の不服申し立ての機会として、法務大臣に「異議の申出」を行います。この申出を受けて、法務大臣が全ての事情を考慮し、最終的な決定(裁決)を下します。ここで異議が認められなければ、「退去強制令書」が発付され、国外退去が確定します。
退去強制を避けるために知っておくべき関連制度
退去強制は非常に重い処分ですが、あなたの状況や行動によっては、この最悪の事態を避けられる可能性があります。ここでは、退去強制そのものを回避したり、その中で希望を見出したりするために、絶対に知っておくべき2つの重要な制度について解説します。
【最も重要】自ら出頭する「出国命令制度」とは
もし、あなたが現在オーバーステイの状態にあるなら、この制度を知っているかどうかが、あなたの未来を大きく変えるかもしれません。「出国命令制度」とは、不法滞在者が、摘発される前に自ら地方出入国在留管理官署に出頭し、速やかに出国する意思がある場合に、身柄を収容されることなく、より軽い手続きで日本から出国できる制度です。最大のメリットは、出国後の日本への上陸拒否期間が、退去強制の「5年または10年」に対し、「1年」に大幅に短縮される点です。隠れ続けることは、事態を悪化させるだけです。一日でも早く専門家に相談の上、出頭することを強くお勧めします。
退去強制手続きの中で認められる唯一の希望「在留特別許可」
前の章で解説した退去強制の手続きの中で、人道的な配慮などから例外的に在留が許可される「在留特別許可」という制度もあります。これは退去強制に直面した方にとって唯一の希望となりえますが、極めて専門的な手続きが必要です。
退去強制に関するQ&A
ここでは、退去強制という厳しい現実を前に、多くの方が抱く疑問について、Q&A形式でお答えします。
Q. 退去強制されたら、もう二度と日本には入れませんか?
A. いいえ、永遠に日本に入国できなくなるわけではありません。しかし、「上陸拒否期間」というペナルティが課せられます。通常の退去強制の場合は原則5年、過去にも退去強制歴がある場合は10年間、日本への上陸が原則として認められません。この期間が経過すれば、再び入国申請を行う資格は回復しますが、審査は以前よりも格段に厳しくなります。
Q. 弁護士や行政書士に相談するメリットはありますか?
A. 絶大なメリットがあります。退去強制の手続きは、法律に基づいた厳格なプロセスです。専門家は、各手続きの段階で、あなたに認められた権利を最大限に活用し、不利益を最小限に抑えるための的確なアドバイスを提供できます。特に、手続きが始まる前の段階で相談できれば、「出国命令制度」の適用を目指すなど、取りうる選択肢が大きく広がります。一人で対応するのは、あまりにも無謀と言えるでしょう。
Q. 家族が退去強制の対象になってしまいました。どうすればいいですか?
A. まずは、ご家族がどのような状況にあり、手続きがどの段階まで進んでいるのかを、一刻も早く正確に把握することが重要です。そして、すぐに専門家へ相談してください。ご家族に代わって、今後の見通しや、考えられる対策(例えば、仮放免の申請や、在留特別許可の可能性の検討など)について、具体的なアドバイスを得ることができます。ご家族だけで抱え込まず、すぐに外部の助けを求めることが、事態を好転させるための鍵となります。
【まとめ】退去強制は「突然」やってくる。手遅れになる前に専門家へ相談を
今回は、日本で最も重い行政処分である「退去強制」について、その対象となるケースから、手続きの具体的な流れまでを詳しく解説しました。
この記事を通じて、退去強制が、決して他人事ではなく、オーバーステイや不法就労といった身近な問題から繋がる、現実的なリスクであることをご理解いただけたかと思います。
最も大事なことは二つです。
一つは、退去強制の対象とならないよう、日頃からご自身の在留資格を適切に管理すること。
そして、もう一つは、万が一問題が発生してしまった場合は、摘発される前に、一日でも早く専門家に相談し、自ら出頭するなどの正しいアクションを起こすことです。
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行政書士法人35
代表行政書士 萩台 紘史
2021年4月 SANGO行政書士事務所を開業
2023年9月 法人化に伴い「行政書士法人35」を設立
外国人の就労ビザ申請に専門特化した事務所として年間350件超の就労ビザ申請をサポート