ドイツ人を日本で雇用する場合の学歴要件とは?技人国(ぎじんこく)ビザは取れる?|就労ビザの取得要件など行政書士が解説
【更新2025.08.21】より分かりやすくするため加筆修正をおこないました。
世界トップクラスの技術力を持つドイツ人材。その採用過程で、履歴書にある「ギムナジウム」や「マイスター」といった学歴・資格の評価に、迷いや不安を感じていませんか。
ドイツの教育制度は、わずか10歳で将来の進路が分かれる「分岐型システム」や、大学とは別のエリートコースである「職業教育」など、日本の制度とは根本的に異なります。この違いを知らずに採用を進めると、就労ビザの申請で「学歴要件を満たさない」という事態になりかねません。
本記事では、就労ビザの専門家が、複雑なドイツの教育制度を「学術ルート」と「職業ルート」の2軸から体系的に解説し、それぞれの学歴・資格が日本の就労ビザ要件をどう満たすのかを明確に示します。最後まで読めば、ドイツ人材の経歴を正確に評価し、採用ミスマッチを防ぐための確かな知識が身につきます。
まずは結論!10歳で進路が決まる?日本と全く違うドイツの教育制度
ドイツの教育システムを理解するには、まず日本の「全員が同じ高校を目指す」という考え方を一度リセットする必要があります。最初に、その核心的な違いを見ていきましょう。最大の特徴は、小学校を卒業する10歳頃の時点で、その後のキャリアを左右する進路選択が行われる点です。
【図解】ドイツの「分岐型」と日本の「単線型」の教育システム比較
日本の学制が、小学校から中学校、高校へと一本の道を進む「単線型」であるのに対し、ドイツは小学校卒業後に複数の学校に進路が分かれる「分岐型」です。
ドイツ(分岐型) | 日本(単線型) | |
---|---|---|
進路決定時期 | 10歳頃(小4修了時) | 15歳頃(中学卒業時) |
中等教育 | ギムナジウム、レアルシューレ等に分岐 | 中学校(全員がほぼ同じ内容を学習) |
大学進学 | 原則、ギムナジウム卒業者のみ | 高校卒業者なら誰でも受験資格あり |
ドイツ教育の3つの特徴:州ごとの権限、早期の進路決定、二つのエリートコース
- 州ごとの権限:教育に関する権限は国ではなく16の各州にあり、州によって制度が若干異なります。
- 早期の進路決定:10歳という早い段階で、大学進学を目指すか、職業教育に進むかの大きな方向性が決まります。
- 二つのエリートコース:学問を究める大学ルートと、技術を究めるマイスター・ルートという、二つの明確なエリート育成パスが存在します。
義務教育は9年または10年、新学期は9月開始
義務教育の期間は州によって異なり、9年間または10年間です。新学期は、秋(8月または9月)に始まり、翌年の夏まで続く2学期制が一般的です。
ドイツの分岐型教育システム:3つの進路を徹底解説
ドイツの子供たちの進路は、どのように分かれていくのでしょうか。小学校から中等教育までの流れを具体的に解説します。
1. 全員が同じ道を歩む「基礎学校(Grundschule)」:4年間
6歳から10歳までの4年間(一部州では6年間)、全ての子供は「グルントシューレ(Grundschule)」と呼ばれる基礎学校に通います。この4年間の成績や教師の推薦に基づき、次のステップの学校が決定されます。
2. 10歳で決まる3つの道:ギムナジウム、レアルシューレ、ハウプトシューレ
基礎学校を卒業後、生徒は主に以下の3つの学校に進路が分かれます。これがドイツ教育の最大の特徴です。
- ① ギムナジウム(Gymnasium):成績優秀者が進む、大学進学を目的とした学校。8〜9年かけて、大学入学資格である「アビトゥーア」の取得を目指します。
- ② レアルシューレ(Realschule):中級レベルの技術職や事務職を目指す生徒が進学。卒業後は、職業専門学校などに進むことが多いです。
- ③ ハウプトシューレ(Hauptschule):職人や現場作業員などを目指す生徒が通います。卒業後は、デュアルシステムと呼ばれる職業訓練に進むのが一般的です。
3. 大学への唯一の切符「アビトゥーア(Abitur)」
「アビトゥーア(Abitur)」は、ギムナジウムの最終学年で受験する卒業試験であり、これに合格することで得られる大学入学資格です。原則として、このアビトゥーアがなければドイツの大学(Universität)には進学できず、アビトゥーアの保有は、大学レベルの教育を受ける能力があることの証明になります。
【採用担当者向け】ドイツの二大エリート育成システム
ドイツ社会では、学問を究める「学術エリート」と、モノづくりの技術を究める「職業エリート」が、それぞれ高く評価されています。採用担当者は、この2つのキャリアパスを理解することが重要です。
1. 学術エリートを育てる「高等教育(大学)」
アビトゥーアを取得した学生が進学する、学術研究の中心となる機関です。
- 総合大学(Uni)と専門大学(FH):「ウニヴェルジテート(Uni)」は研究志向の強い伝統的な総合大学、「ファッハホーホシューレ(FH)」はより実践的な応用科学大学です。
- 取得できる学位:主な学位は、3年制の「Bachelor(バチェラー/学士)」と2年制の「Master(マスター/修士)」です。
- 主要大学:ミュンヘน工科大学、LMUミュンヘン大学、ハイデルベルク大学などは、世界大学ランキングでも常に上位に入る名門校です。
2. 技術エリートを育てる「職業教育(デュアルシステム)」
ドイツのモノづくりを支える、世界的に有名な職業教育システムです。
- デュアルシステム:週の数日を企業で実践的な訓練(OJT)を受けながら給与をもらい、残りの日を職業学校で理論を学ぶ、産学連携の教育システムです。
- 国家資格「マイスター(Meister)」:デュアルシステムで職人となった後、さらに数年の実務経験と専門教育を経て国家試験に合格すると、「マイスター」の称号が与えられます。これは、その分野の最高の技術と知識を持つことの証明であり、社会的に非常に高い評価を受ける資格です。
【専門家の視点】ドイツの学歴・資格と日本の就労ビザ要件
ここからが最も重要です。「大学卒業」と「マイスター」、これらの異なる経歴は、日本の就労ビザ申請においてどのように評価されるのでしょうか。ビザの専門家として解説します。
結論①:「大学卒業(Bachelor)」は就労ビザの学歴要件をクリア
ドイツの大学(UniまたはFH)を卒業して「Bachelor(学士)」の学位を取得している場合、「技術・人文知識・国際業務」ビザの学歴要件である「大学を卒業したこと」を問題なく満たします。
結論②:「マイスター資格」は「技能ビザ」で高く評価されるが、「大卒」の学歴要件には該当しない
「マイスター資格」は、大学卒業資格ではないため、「技術・人文知識・国際業務」ビザの学歴要件には該当しません。しかし、特定の分野(例:パン職人、自動車整備士など)で熟練した技術を要する業務を行うための「技能ビザ」を申請する場合、「マイスター資格」はその専門性を証明する最高の資格となり、極めて有利に働きます。
なぜマイスターは「大学卒業」と見なされないのか?
日本の就労ビザ制度では、「学術的な教育課程」と「職業訓練課程」が明確に区別されているためです。マイスターは後者の最高位の「資格」であり、大学で授与される「学位」とは異なるため、大学卒業とは見なされません。
要注意:「アビトゥーア」は大学入学資格であり、卒業資格ではない
「アビトゥーア」の取得は、高い学力があることの証明にはなりますが、これはあくまで「大学への入学資格」です。日本の「高卒」資格に相当するため、これだけでは就労ビザの学歴要件を満たしません。必ず大学を卒業し、「Bachelor」以上の学位を取得しているか確認が必要です。
【駐在員・移住者向け】ドイツの日本人学校とインターナショナルスクール
ご家族でドイツに赴任される方向けに、お子様の教育の選択肢もご紹介します。
1. デュッセルドルフ、ミュンヘンなど各地にある「日本人学校」
デュッセルドルフ、ミュンヘン、フランクフルト、ベルリン、ハンブルクなど、日本人が多く住む都市には全日制の日本人学校があります。日本のカリキュラムに沿った教育が受けられるため、帰国後の編入もスムーズです。
2. 現地校や「インターナショナルスクール」という選択肢
現地の基礎学校(Grundschule)に入学し、ドイツ語や現地の文化に触れる選択肢もあります。また、主要都市には英語で学べるインターナショナルスクールも充実しており、グローバルな環境でお子様を育てたい家庭に人気です。
ドイツの教育制度に関するよくある質問(Q&A)
- Q1. ドイツの卒業証明書にアポスティーユは必要ですか?
- A. はい、必要です。ドイツはハーグ条約の加盟国であるため、大学の卒業証明書などの公文書を日本で公式に利用するには、ドイツの管轄当局によるアポスティーユ認証が求められます。
- Q2. ドイツの大学は学費が無料と聞きましたが、本当ですか?
- A. 多くの州の国公立大学では、EU圏外からの留学生に対しても授業料は無料または非常に低額です。ただし、学生登録料などの諸経費は必要となります。バーデン=ヴュルテンベルク州など一部の州では、留学生向けの授業料を導入しています。
- Q3. 採用時に確認すべき学歴や資格の証明書は何ですか?
- A. 大学卒の場合は「学位証明書(Urkunde)」と成績証明書、マイスターの場合は「マイスター証書(Meisterbrief)」の確認が必須です。どのルートでどのような教育・訓練を受けてきたか、証明書で正確に把握することが重要です。
- Q4. ドイツの教育制度は今後変わる可能性はありますか?
- A. 常に議論と改革が行われています。早期に進路を決定する分岐型システムについては、機会の平等の観点から批判もあり、ベルリンなど一部の州では基礎学校を6年に延長するなどの変更も行われています。今後も州レベルでの変更はあり得ます。
まとめ:ドイツの教育制度を理解し、多様なエリート人材を獲得しよう
ドイツ教育制度の重要ポイント
最後に、ドイツ人材の採用における重要ポイントを再確認しましょう。
- 10歳で進路が決まる「分岐型システム」が基本
- 学術の「大学」と、技術の「マイスター」という2つのエリートコースがある
- 大学卒(Bachelor)は「技術・人文知識・国際業務」ビザの学歴要件に該当
- マイスターは「技能ビザ」で高く評価される専門資格だが、「大卒」にはあたらない
学歴評価の鍵は「学術」と「職業」の二大ルートの理解
ドイツの教育制度を理解するとは、「学術」と「職業」という2つの異なるキャリアパスの価値を理解することに他なりません。どちらが優れているということではなく、貴社が求める職務にどちらの人材が適しているかを見極めることが、採用成功の鍵です。そして、その評価に基づき、適切な種類の就労ビザを申請することが不可欠です。この判断を誤ると、優秀な人材を取り逃がすことになりかねません。
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行政書士法人35
代表行政書士 萩台 紘史
2021年4月 SANGO行政書士事務所を開業
2023年9月 法人化に伴い「行政書士法人35」を設立
外国人の就労ビザ申請に専門特化した事務所として年間350件超の就労ビザ申請をサポート